このたび、AI KOWADA GALLERYでは、「おまじない」「“I”beyond」展を開催いたします。 「サラバ!」で直木賞を受賞した西加奈子は、常に小説のテーマを、絵画においても表現してきました。昨年の個展「i(アイ)」では、ギャラリー空間全体を使ったインスタレーションアートを発表。たくさんの観客を西の豊穣なストーリーに包み込み、圧倒しました。幼少時から絵画創作をしてきた西は、段ボールにクレヨンという素朴な素材に、力強いストロークで描きあげるという独自のスタイルを確立しています。二期制で構成される本展は、絵画という形でも発揮される西加奈子の表現の奥行きを、具象画・抽象画という二つの視点で、ご紹介いたします。
本展は西がかねてから「文学」と同じく情熱を傾ける「絵画」にスポットを当てた、2度目となる企画展示となります。 小説のテーマを絵画でも制作してきた西。その作品は表紙絵や挿絵となり、ストーリーを理解する鍵となる存在でもありました。 クレヨンが油絵の具のように暑く塗り重ねられた段ボールのタブローには、西の華奢な体に宿るエネルギーが放出され、力強さに溢れています。西は小説をとおし、自己のアイデンティティに悩み、途方に暮れる人々の背中を「あなたはあなたのままでいい」と押し続けてきましたが、そのメッセージは絵画においても投影されています。 西が画材とするのは、幼少時から親しんでいるクレヨン、そして通っているスーパーで譲り受けるという段ボールです。正式な美術教育を受けず、身近な素材を「画材」とし、表現するという西独自の制作スタイルは、ニューヨークなどの街角で、描く素材や場所を選ばず、さまざまな社会問題をわれわれに訴えてきたストリート・アーティストの姿にも重ねられます。
前期:「おまじない」
先月刊行された、西にとり10年ぶりとなる短編集「おまじない」(筑摩書房、2018)。 いくつになってもやわらかく、こわれやすいこころを持ち続けている「女の子」たち。様々な人生の節目で穴に迷い込んでしまう彼女たちを、救い出してくれるような「おまじない」のような言葉にまつわる、8編の物語が収録されています。夕焼けのように赤く染まる空をバックに煙を吐く煙突や、こちらを見上げる子犬の何か言いたげに揺らぐ瞳、地を這うカタツムリの滑らかな躰と魅惑的な殻模様。具体的な輪郭を与えられて描かれたそれらは優しい印象を持つ一方、同時に小説にも表現される心の「ゆらぎ」や「不安定さ」をも見事に表現しています。本展ではそれぞれの物語にあわせて描き下ろされた、具象絵画8点を展示します。
後期:「“I”beyond」
アメリカ人と日本人の夫婦に引き取られた主人公「アイ」。自己の境遇にもがきながらも、アイデンティティを、そして自由を獲得していく物語が、世界で起こる悲劇と並行しながら進んでいく小説“i(アイ)” (ポプラ社、2017)。刊行にあわせ、弊ギャラリーで開催された初個展において西は、ギャラリー全体を力強いストロークで描き上げた波や渦で埋め尽くしました。西の表現世界に包まれる空間インスタレーションは、登場人物たちの心の機微を追体験させ、たくさんの観客を圧倒しました。今回、その「インスタレーション“I”」を、「“I”beyond」というテーマで、個別のタブローとして再構成しました。西が様々な色彩を自在に操りながら、鮮烈な生命観を描いた抽象絵画、13点を展示いたします。
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西 加奈子
1977年 イラン・テヘラン生まれ。東京在住。 2004年「あおい」でデビュー後、2013年「ふくわらい」で河合隼雄賞を受賞、2013年に「ふくわらい」で第一回河合隼雄賞を受賞し小説家としての評価を高めただけでなく、宮崎あおい・向井理主演での「きいろいゾウ」が映画化されるなど、幅広いファンを獲得してきました。2015年「サラバ!」で直木賞を受賞。昨年発売された「i(アイ)」は現在12万部を売り上げるベストセラーとなり、各方面で話題になりました。
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開催協力
筑摩書房、ポプラ社