このたびAi Kowada Galleryは、新ギャラリースペースでの展示企画第一弾として、画家、鈴木星亜の新作展を開催します。
鈴木星亜は、木立や家屋、道路などありきたりの風景モチーフを素朴派風とも感じられる簡略化されたタッチで表し、それらを多様な距離と角度からとらえて画中に配置するスタイルで、オリジナリティ溢れる作品を生み出してきました。その印象深い作風は多くの反響を呼び、2012年にはVOCA賞を受賞、昨年は第一生命ギャラリーとオペラシティ・アートギャラリーで開催された個展で高い評価を得ています。
鈴木の制作プロセスは独特で、描くべき風景について現場で観察した結果を文章に書き留め、それを元にアトリエで描きます。珍しい手法ですが、鈴木は文章に基づいた方が写真やスケッチによるよりも、場所から受けたさまざまな感覚を、正確に画面に置き換えてゆくことが出来ると考えているのです。それはまた、画家が無意識に従いがちな、透視図法を始めとする絵画制作上のさまざまな因習的約束事と距離を保ち、「物を見る」という行為の本源に立ち戻って絵を作ろうという姿勢のあらわれでもあるようです。
今回展示するのは水面を主題とした作品群です。同モチーフの選択について鈴木は「意識的に選んでいたわけではないのだが、水面に惹かれているのは、ものの在り方を如実に示しているからかもしれない」と述べました。次々と現前する多様な事物を分け隔てなく映し出し、絶えず流動するこの物体を、一つの固定した解釈が無効である世界の本質に重ね合わせての発言でしょうか。しかし一方で、硬質な金属メッシュやハニカム構造の規則的パターンを思わせる水面の形状には、変幻する視覚現象の奥に潜む物の確固とした本質をとらえたいという画家の無意識の意志が表れているようでもあります。
ところで「絵が見る世界」とは鈴木本人の表現で、それは、絵画制作においては画家の意志と無関係に、絵画という技法自体が必然的に画中に導入を要請する要素が存在するという彼の認識を表しています。それらの要素は、作者の能動的な選択の結果というより、言わば絵画それ自身が眼を持って選び描いたという考え方をしているのです。
視覚の本質への肉迫と、絵画という媒体の要求との葛藤の中に創出された揺蕩う水面のイメージは、私たちに絵を見る醍醐味を存分に味あわせてくれるでしょう。
「鈴木星亜 知覚と表現のはざまで」
(東京オペラシティ アートギャラリー 福士 理)
http://www.operacity.jp/ag/exh183.php