この度 AI KOWADA GALLERY hanareでは「アジア・アナーキー・アライアンス」展のサテライト会場として、坂野充学展「appearing〜彼女の詩、彼女の詩、あるいは彼方への記憶〜」を開催致します。
坂野が昨年、台北での滞在を通して制作した映像作品「appearing」は、日本語を話す台湾人世代を取材し、そのリサーチを元に制作した映像6点で構成されています。時代とともに風化していく歴史や、語られることのない個人のストーリーを、それぞれの「声」を通して残していこうとする台湾の人々の姿を、坂野は映像を通してさらに可視化します。
本展は、トーキョーワンダーサイト渋谷・本郷で開催される「アジア・アナーキー・アライアンス」展のサテライト・プログラムの一環として企画されました。
「appearing」と題された本プロジェクトは、坂野充学が台湾に残る日本語教育や文化的な背景と、それらを享受してきた高齢世代たちの現在の活動に興味をもち、彼自身が、台湾で唯一の日本語ケア施設「玉蘭荘」を訪問するところからはじまります。今回の展示では、玉蘭荘でのプログラムや日本教育をうけた台湾の人々による対話の記録映像、また玉蘭荘で偶然に出会ったアマチュアシンガーソングライターである黄林春枝(82歳)が、自身で制作したミュージックビデオ集から構成されています。年少期の約7年間を日本で過ごした黄林春枝が夫・林正青と共同制作した、楽曲およびミュージックビデオは、今回が一般に発表されるはじめての機会となります。
今回改めて撮影された「日本魂の歌」では、作詞を担当した林が武士道として親しんだ日本魂と、戦後半世紀経った日本で彼が感じた日本魂が、ユーモアと皮肉を織り交ぜて表現されます。その歌詞と柔らかなメロディーからは彼らの日本への愛情が伺えますが、一方で地震、人為災害、いじめ、年金などの風刺のきいたフレーズは、制作から20年経った現在でも、私たちに緊迫感を与えます。
これらの映像は、台湾の戦前・戦後を体験した生き字引たちのすがたを描き出すと同時に、風化されゆく歴史や記憶を可視化する試みです。